(1) 社会的条件の変化
(2) 経営条件に関する現状と課題
(3) 地方鉄道に関する国の動き
(4) 将来における可能性と社会的必要性
(1) 社会的条件の変化
沿線人口の減少と少子高齢化の進展
一畑電車沿線の3市1町全体の人口は増加傾向にあるが、駅勢圏人口は減少しており、年齢階層別では、若年人口の減少と高齢人口の増加が顕著である。
とりわけ、直近の国勢調査では、島根県の高齢化率(65歳以上人口の割合)は全国1位の25%近くに達し、わが国全体の20年先を進んでいると言われる水準にある。沿線地域においても特に平田市及び大社町の高齢化率が高い。
また、将来予測(平成33年度)においては、沿線地域では1割程度の人口減が見込まれ、特に75歳以上の人口が倍増するのに対し、若年層の減少が著しいとされている。
道路整備の進展と自家用交通の普及拡大
湖北地域においては、東西軸として一畑電車と並行して国道431号が走っており、今後、道路拡幅や新たな地域高規格道路の構想もある。また、湖南地域においても山陰自動車道の整備など宍道湖周辺地域の道路ネットワークは着実に進展している。
自家用車の保有は世帯当たり2.3台(3市1町の平均値)になるなど、自動車の普及も顕著である。また、運転免許保有者数も引き続き増加し、とりわけ女性の保有率の増加が著しい。
以上の状況より、将来における公共交通の利用率は、サービスレベルが現状から改善されない場合にはさらに減少することが予測される。
活性化が望まれる駅周辺市街地の状況
松江しんじ湖温泉駅は近年改築され、駅前広場も整備されているものの、周辺に商業施設が集積する状況には至っていない。
電鉄出雲市駅は平成12年度の出雲市駅付近連続立体交差事業にともなって改築され、JR出雲市駅とともに出雲市の中心駅として周辺市街地の集積が進んでいる。
平田市駅は、バスの接続が図られるなど市の中心駅としての役割を果たしている。
出雲大社前駅は、全国的に著名な出雲大社の参道沿いに位置するものの、自動車用の駐車場の位置関係などによって参詣者の通行が少なく、寺社特有のにぎわいが見られない状況にある。
その他の駅は、川跡駅での乗換利用が多いほかは利用者数がいずれも少なく、1日の利用が100人に満たない駅が少なくない。また、駅周辺の市街化も進んでいない。
(2) 経営条件に関する現状と課題
輸送人員の減少傾向
一畑電車の輸送人員は、昭和54年度の約320万人に対し、現在(平成14年度)は140万人台になっている。近年においても減少傾向は続いており、特に定期外の落ち込みが大きい。
今後、約20年間で沿線人口は約1割減少し、特に主要な顧客となっている中・高生は24%の減少、就業人口も16%の減少が予想されていることから、利用者数は20年後には2割程度減少することが見込まれる。
施設の近代化の必要性
一畑電車の鉄道施設は路線延長42.2km、26駅を数え、全線に亘って橋長5m以下の比較的短い橋りょうが多数あり、部分的に高架及び土留擁壁区間も見られるがトンネルはない。
平成6年度より近代化補助等により、これらの施設の近代化が図られているが、橋りょうは耐用年数のほぼ2倍の供用年数となっており、24両のうち20両在籍する近代化車両についても、10年以内に耐用年数を迎えるなど全体的には老朽化が進んでいる。
今後、年間1億円で20年間の設備投資(近代化補助の活用)を実施した場合、橋りょうの約8割、車両の約7割は更新され、重軌条化(40Nレール化)や電車線自動張力調整装置化については完全達成されることとなる。
また、維持管理に関しては、安全性緊急評価事業への対応を優先した結果、軌道ではPCまくら木化、電路設備ではコンクリート柱化について十分な近代化が図られていないことから、具体的な経費削減のためには今後も投資が必要である。
内部補助の限界
一畑電車は、一畑電気鉄道株式会社が経営する鉄道事業以外の収益によっても支えられてきた側面がある。しかしながら、一畑電車をはじめとする民間鉄道事業者は、直面する経営環境と新企業会計制度の適用(連結基準の変更・退職給付債務処理・時価会計等)に対応できる経営基盤の強化を図るとともに、平成17年度の減損会計導入(予定)に備えた体制を整える必要に迫られており、赤字部門の内部的補填についても限界がある。
鉄道として継続していくためには兼業部門からの内部補助に頼らない健全な経営を確立することが必要である。
自助努力の限界
赤字を解消するためには、平成14年度実績でみれば、55%程度の需要増が必要である。また、20年後の平成34年度予測で見れば、114%の増加が必要であり、需要喚起策を実施し、最大限の効果を期待したとしても、この需要水準には至らないと考えられる。
一方、経費削減については、事業者の努力によって「一畑電車新経営改善計画」に示された計画を上まわる実績をあげており、類似事業者と比べても高い労働生産性が実現されている。
また、経費削減への徹底した取組みは、新たな収入増や利便性の向上などのための施策の推進を困難にし、長期的には競争力をより低下させることにつながる可能性もある。
収入と経費に関するこのような動向を踏まえれば、公的な支援(補助)がある限り、鉄道事業は継続されるが、事業者の自助努力のみによって経営を画期的に改善することは極めて困難であると考えられる。
安全性の確保
一畑電車では施設の近代化等により保安度の向上を図るなどして、安全性の確保に努めており、国による安全性緊急評価事業に基づく適切な施設改善も予定されている。
しかしながら、鉄道事業の安全性は施設・車両、人、組織・体制などの全般に係わるものであり、適正な施設管理だけでなく、一層の装置産業化への推進を図るとともに、職員のモラルの維持と高揚に努め得る環境づくりが必要である。
少数精鋭で運行している一畑電車にあっては、ヒューマンエラーの発生を防ぐことも重要であり、安全性の確保を脅かす人件費削減策は鉄道事業者としての自助努力の範囲を超えるものと認識する必要がある。
(3) 地方鉄道に関する国の動き
需給調整規制の廃止
旅客鉄道分野については、平成12年3月、改正鉄道事業法の施行により、需給調整規制が廃止され、運賃規制の緩和等が図られるとともに、退出に際しては許可制から事前届け出制(1年前)となり、地方公共団体の同意が不要となった。
規制緩和後においては、競争的市場の実現によって交通サービスの活性化が図られている一方、需要の少ない地方部においては民鉄を中心に廃止または撤退が発生する状況となっている。
地方鉄道復活に向けてのシナリオ
平成14年度に国において取りまとめられた「地方鉄道復活に向けてのシナリオ」には、今後の地方鉄道の在り方としての、基本的考え方が示された。
地方鉄道は地域の基礎的な社会基盤であり、地域が一丸となって支えるという視点が極めて重要であるとし、「鉄道事業者の自助努力と国・地方の適切な関与」が重要であるとしている。また、今後の課題として新たな支援やシステムの在り方について検討していく必要があるとしている。
国と地方両方の財政赤字
国は巨額な債務残高を抱えており、地方財政計画における地方財源不足額の推移をみても、平成6年度以降大幅に拡大し13年度には地方財政計画総額の16%に相当する14.2兆円に達している。
平成11年度の財政赤字(ここでは政府部門の貯蓄投資差額をいう)をみると、国は35.0兆円とGDPの6.8%、地方は7.2兆円、同1.4%となっている。
国と地方両方の財政赤字は、我が国経済の様々な場面で深刻な影響を与えているが、沿線自治体においても松江市以外、歳入の概ね2/3は地方交付税をはじめとする依存財源で占められており、将来的に依存財源が削減されれば、更に厳しい財政状況が予想される。
最近の沿線自治体等による一畑電車への支援は欠損補助打ち切り前とほぼ同レベルまで戻っており、時限的に行われた特別交付税措置も昨年度より得られなくなっている。
今後、一畑電車に対する財政支援を行う場合においては、より効果的かつ透明性の高い適切な財政支出をすることが求められる。
(4) 将来における可能性と社会的必要性
安全で確実な公共交通サービス提供の必要性
自動車社会が進展するにつれて、自動車を利用しない人々の交通モビリティが著しく低下しつつあるため、すべての人が安全で確実に移動することができる社会を構築していくことが重要な課題となっている。利便性が高く、確実性・安全性の面において優れた特性を有する鉄道は、道路上を自動車とともに走行せざるを得ないバスとは異なる特徴を持っており、公共交通ネットワークの中心としての役割を担っていくのに適した交通機関である。
高齢化と安全性
わが国の高齢者層の自動車運転者の死亡事故件数も増加傾向にあり、道路交通事故による死者数の割合も4割弱(2001年)を占めている。これは欧米諸外国の概ね2倍という高率であり、高齢者が安心して移動できる生活環境の整備のためにも快適で利用しやすい公共交通サービスの提供が求められている。
環境対策の必要性
運輸部門のCO2排出については増加を続ける自動車部門の対策が最重要課題とされており、環境負荷のより小さい公共交通機関へとシフトさせることが求められている。とりわけ鉄道がなくバスのみに頼らざるを得ない地域では公共交通の利用率が著しく低くなっていることを踏まえれば、自動車との競争力の強い鉄道を中心として公共交通ネットワークを構成していくことが重要であることがわかる。
平成15年度からは、公共交通への利用転換促進のため交通事業者が行う先進的な利便性向上策の実験に対して支援する制度が設けられるなど、環境保全に資する公共交通の利用促進は国全体における課題にもなっている。
都市間交流の必要性
一畑電車沿線では、松江市及び出雲市への通勤・通学流動が多く、これに対応することができる公共交通サービスが求められている。また、近年、一畑電車沿線には大学、専門学校等が開校していることなどから、将来においても定時性の高い公共交通サービスを提供していくことが期待されている。
観光振興の必要性
一畑電車沿線においては、宍道湖の美しい車窓や出雲大社、一畑薬師など既存の観光名所に加え、新経営改善計画の期間中に沿線自治体による沿線開発が積極的に行われ、ここ数年の間に多彩な集客施設が相次いでオープンした。しかしながら、一畑電車によるこれらの施設への利用は現在極めて少ない状況であり、これらの施設を活用した利用者増の余地は小さくない。
これからの時代において、観光は地域の基幹産業となっていく可能性が高いが、一方では地域間の競争も厳しくなる。その際には、それぞれの地域の個性と魅力が重要な要素となっていくが、観光鉄道的な要素もあわせもつ一畑電車は、この地域の観光面での競争力を高めることにも貢献できる可能性を持っていると考えられる。