4.地域における社会基盤としての新しい方向に向けて

(1)運営方式の検討
(2)インフラ所有権を移転しない上下分離方式
(3)各主体の果たすべき役割

4.地域における社会基盤としての新しい方向に向けて

(1)運営方式の検討

基本原則

一畑電車に対しては、従来より県と沿線自治体で構成する沿線地域対策協議会が財政的な負担を行ってきており、一畑電車が地域にもたらしている便益に対してはこれまでも一定の負担を行ってきたといえる。

しかし、赤字を補填する方法は、鉄道事業者にとっては収支改善の成果を自ら享受することができず、また、納税者の立場からは負担と便益の関係が明確に捉えにくいという問題がある。

そこで、鉄道として存続させるためには、「鉄道事業者の自助努力と地域による適切な関与」という国の地方鉄道再生に向けてのシナリオにも示されている基本方針を確認し、それを実現し得るような新たな運営方式を検討する必要がある。

運営方式の基本となる原則は、責任の範囲を明確化し、鉄道と地域が最大の力を発揮できるような新しい形態とすることであり、そのためには下記のことが重要である。

運営形態の比較

地域の社会基盤としての適切な鉄道運営のあり方について検討するため、下記の方式について比較した。

      1. 現在方式
      2. 上下分離(保有と運営の分離等)方式
      3. 第三セクター方式
      4. インフラ(線路・電路等)所有権を移転しない上下分離方式

それぞれの形態の長所および短所は下記のように整理でき、「Cインフラ所有権を移転しない上下分離方式」が基本理念に基づく運営形態として、最も妥当なものであると考える。

      1. 現在方式
        現状の赤字補填による方式は、発生した赤字額に応じて支援することになり、鉄道事業者の収支改善への努力が発揮されにくい。また、サービスレベルの向上がほとんど期待できないという問題もあり、住民(納税者)からみて負担と便益の関係が理解しにくい。

      2. 上下分離(保有と運営の分離等)方式
        上下分離(保有と運営の分離等)方式は鉄道を社会基盤として道路等と同様に扱う考え方で、路盤・線路施設は公的主体が保有・維持していくという役割分担の明確化が図られる点において透明性の高い支援方式である。しかしながら、施設保有のための初期投資として自治体等の大幅な財政支出(約11億円[平成15年3月末簿価])が必要であり、施設保有に伴う責任も発生することなどから、実施にあたっては大きな課題が残る。

      3. 第三セクター方式
        第三セクター方式は、運行部分にも公的に関与するものであるが、経営形態として最近の厳しい見方があることに加え、設立のために上下分離(保有と運営の分離等)方式以上に自治体等の大幅な財政支出(約14億円[平成15年3月末簿価])を伴う。

      4. インフラ所有権を移転しない上下分離方式
        インフラ所有権を移転しない上下分離方式は、初期の負担が生じない一方で、公的な負担と民間の事業の役割分担を明確にすることができる。そのため、鉄道事業者は運行部分において最大限の効率化を進める意欲が生まれ、運行サービスレベルの向上も期待できるなど、他案と比較して最も実施しやすく効果も期待できる。

(2)インフラ所有権を移転しない上下分離方式

インフラ所有権を移転しない上下分離方式は、鉄道を地域における社会的な基盤と位置づけたうえで行政としての責任を果たす方式で、行政としての負担の目的は、赤字補填ではないことを明らかにしたうえで、便益の範囲において、以下の適切な負担を行うことを基本と考えるものである。

  1. 線路・電路等の基盤施設の維持・管理及び、これらの施設に係る費用
  2. 運行本数の増加、スピードアップ等の利便性向上のために必要な施設整備

 

また、事業者は最大限の努力をすることを前提として、その経営努力により生み出される利益については適切に享受することができるようにすることによって、自立的に運営していくものとする。

一畑電車は地域の基礎的な社会基盤であり、公共の都市施設として、沿線地域が一丸となって支え、守るという視点が重要である。地域における通勤・通学、通院、買物等をはじめとする地域住民の日常的な生活に活用されているものであり、地域の鉄道輸送サービスを維持し、かつ、そのサービスを一層魅力あるものとするためには、一畑電車と沿線自治体、地域住民、地元企業等とが連携しつつ、「自分たちの鉄道」という思いを共有し、地域が一丸となって支えるという視点が極めて重要となっている。新しい運営方式はそれを具体的な形として表したものである。

(3)各主体の果たすべき役割

I.県・市・町の果たすべき役割

県・市・町は、一畑電車沿線地域対策協議会(沿対協)を組織し、これまでも一畑電車を支援してきたが、新しい運営方式のもとでは地域における社会基盤として位置付けたうえで、責任の範囲を明確にした「インフラ所有権を移転しない上下分離方式」によって、事業者の自助努力を促進するとともに、利便性向上を可及的速やかに進めていく必要がある。

また、自動車のみに依存しない社会の構築に向けての、総合的な交通政策の中心として鉄道を活用する方策を進める必要がある。その際、事業者と地域が一体となって鉄道を運営していくことのメリットを活かして、観光振興、環境・エネルギー対策なども含めて両者が協調して進めていくことに努める必要がある。

一方、長期的には都市づくりと鉄道の連携が必要であり、都市計画の策定や公共施設の立地選定などの際には、公共交通の利用促進につながるような視点を常に持つことが必要である。

II.事業者の果たすべき役割

地域全体で鉄道を支えていく以上、企業としても最大限の効率化とサービスレベルの向上を常に目指す必要がある。これまでも高い効率性の実現に努めてきているが、今後においてもより一層の努力が期待される。

また、安全の確保は鉄道事業の基本であることをあらためて認識し、自ら努力するとともに、関連機関との適切な情報交換・技術力向上等を協力して進めていくことが必要である。

さらに、一畑電鉄グループによる多くの関連事業との連携によって利用促進を図ることも重要であり、ホテル等の旅行関連事業や百貨店等商業関連事業と連携した企画の開発など利用促進に努めることが期待される。

III.住民・利用者の果たすべき役割

交通問題は、ゴミ問題や資源エネルギー問題などと同様に、一人一人の問題であることを認識し、公共交通の利用促進に向けて努力する必要がある。

ボランティアなど地域活動との連携や、総合学習の題材としての活用、各種イベントの実施等、マイレール意識醸成に向けた努力が求められる。

また、近年その存続が危ぶまれた鉄軌道において再生に向けた動きが進み始めている事例が少なくないが、その再生の底力として地元の支援団体あるいは市民団体の存在が大きな役割を果たしている。いずれも単なる要求のための組織ではなく、実践的活動のなかから実行可能な提案を示すなど、事業者や行政と連携して実効性のある成果を残していることを参考に、有効な活動が展開されていくことが期待される。

IV.国の果たすべき役割

地方鉄道は、地域の努力によって支えていくことが原則であり、安易に国に頼ることは避けなければいけない。しかしながら、国と地方の財政力に格段の差があり、地方への財源移譲の途上である現時点においては、国の一定の関与が必要である。とりわけ、安全の確保については緊急性があり、老朽化した施設の更新による利便性向上施策とあわせて適切な補助が望まれる。

国の地方鉄道整備のための財源は公共事業費の1000分の1にも満たず、地域の社会基盤としての近代的設備の構築が遅れていることが地方鉄道の苦戦の原因であることを踏まえて、適切な財源措置されることが重要である。


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