(1)更なるサービスレベルの向上.
(2)地域との連携・協力による施策展開
(3)都市政策との連携強化
(1)更なるサービスレベルの向上
将来においても地域において価値ある存在となるためには、更なるサービスレベルの向上と利用促進のための施策を展開していくことが必要である。
現状のままで単に運行の赤字を埋めて延命しても利便性向上のための施策が伴わなければ、やがて競争力を失うことになる。地方においては、道路の整備が進展する一方で、鉄道は単線で高速化も進展しないものが多いが、適切な競争力が備われば地域の基幹的公共交通として十分な役割を果たしていける鉄道は少なくない。一畑電車においても効率的な投資によって、適切な利便性向上策が実施され、将来の競争力を保持していくことが必要である。
1.運行本数増
優等列車を含めた朝・夕の増便
利用者アンケートによれば、輸送サービスレベルの向上として運行本数増に対する期待は大きい。単線鉄道であるため昼間時を含む大幅な増便は現時点においては難しいが、朝・夕には優等列車の設置も含めて増発を検討すべきである。特に、通勤・通学における自動車との競争や、松江市〜出雲市間のJR山陰線との競争においては、運行本数も重要な要素である。
事業者は、朝・夕ピーク時については急行列車の特急列車への格上げを図ることにより、松江市役所・島根県庁をはじめとする駅近隣事業所への通勤等に最大限の利便性を提供していくことが求められる。
また、現況施設においては増便に限界があるため、一層の利便性向上に向けては事業者と行政が連携して、美談駅への行違い施設の整備や平田市〜布崎間への信号場の整備などにより、線路容量を増やし、朝ピーク時の輸送サービスレベルの向上を図ることを目指していく必要がある。
昼間時の運行間隔の改善
単線の場合、行違駅間の所要時間と運行間隔をバランスさせる必要があり、現行の42分間隔は不要待ち時分を最小とした合理的なダイヤである。しかしながら、わかりやすい便利なダイヤとし、駅で接続する市内バスなどと運行間隔をあわせるためには、30分間隔のダイヤが優れており、この水準を目指すことが望まれる。ただし、そのためには行違設備などの投資が必要であり、当面は40分間隔を目指すことが望ましい。松江しんじ湖温泉駅で接続する松江市内の循環バスが20分間隔で運行されており、すべての列車がこのバスと接続するようにダイヤをあわせることによって松江市内一円への利便性が大きく向上することとなる。40分間隔は、昼間時の利用が極端に少ない駅を通過する準急タイプとすることによって実現できると考えられる。
また、現況ダイヤに影響のない形で「松江しんじ湖温泉」「一畑口」「平田市」「川跡」「電鉄出雲市」を停車駅とする特急を設定することは物理的に可能であり、具体化に向けて検討すべきである。
2.スピードアップ
物理的に可能な最大22分の短縮時間を目指す
スピードアップには地上設備の改良や高性能車両の導入による方策があるが、いずれも投資額は多額となる。松江〜出雲市間で競合関係にあるJR特急並みのスピードアップには概略的検討で40〜50億円の投資が必要となり、当面、実施することは難しい。
しかしながら、現況施設及び車両性能の下でも特急運転によって最大22分の短縮が可能であり、JR特急と比較しても相当程度の競争力はあると考えられる。
また、極端に利用者数の少ない駅については廃止・統合あるいは通過などを検討すべきである。当該駅の利用者にとっては不便となるが、乗降客の無い駅で停車することがしばしば生じている現在の状況は、鉄道として適切なものではなく、他の乗客に時間損失を及ぼしている点は是正する必要がある。なお、廃止・統合または通過となる駅については、コミュニティバス等によって対応するなどの措置が考えられる。
(2)地域との連携・協力による施策展開
1.マーケティング戦略
鉄道事業はサービス産業であることをあらためて認識し、顧客満足度を高め利用者の獲得への努力を行うことが重要である。
特に観光客の獲得は、地域による需要の限界を補うものとして重要である。松江市内への観光客、松江フォーゲルパーク、ルイス・C.ティファニー庭園美術館への来訪客などによる一畑電車の利用は現時点では多いとは言えず、さらに利用促進への努力が必要である。
また、一畑百貨店、ホテル一畑など一畑電車の関連会社とのタイアップの強化による買い物切符の発売や施設利用料金割引切符などの連携施策の展開が期待される。
2.運賃施策:競争力を高める運賃値下げ
運賃値下げは、利用者アンケートで最も要請が高い項目であり、需要予測上もJR並みに値下げをした場合には1割弱の利用者増が見込まれている。運賃値下げを行っても総収入が増加する可能性は低く、事業者単独では実施は難しいが、競争力強化による効果は大きく、政策的に実行する価値は大きい。表4は、値下げを実施した時の効果を試算したものである。15%の運賃値下げを行った場合、事業者の収入は年間約2000万円減少するが、その分はそのまま利用者の移動費用削減効果となるうえ、鉄道への転換に伴う所要時間短縮効果や道路混雑緩和効果などの便益が年間1億円を越える。このような視点からの運賃政策は、わが国の鉄道政策の中では実施された例は少ないが、総合的な交通政策の1つとして社会的な価値が大きい方策であり、一畑電車において先導的に実現されることが期待される。
なお、運賃値上げについては、自家用交通の普及拡大が続くなか、一層の利用客離れを加速させる恐れがあると考えられる。
3.既存公共交通機関等との連携の強化
駅におけるバスとの連絡、駐輪・駐車場の設置など、接続する交通サービスとの連携は極めて重要である。
現在、松江市内には比較的密度の高いバスネットワークが形成されており、松江しんじ湖温泉駅からも多くのバス路線が設置されている。しかしながら、一畑電車の到着時刻とバスの時刻の整合がとれていないケースもあり、特に通勤時間帯での接続の強化については早急に対応する必要がある。
また、平田市内の生活バスや、出雲市及び大社町における民間事業者のバスにおいても同様に高い接続利便性の実現に努力する必要がある。
4.情報技術等の活用
利用者利便の向上に資する携帯電話や携帯情報端末の普及や技術の高度化に合わせた情報やツールの提供を行うことも必要である。自動車に対する優位性を確保できる施策として、車内LANの設置なども考えられる。
自動車だけに頼らない都市を構築することは、今後の都市づくりでの重要な視点であることをふまえ、公共施設の立地をはじめとする都市政策全般において、一畑電車の利活用を図る視点を持つことが重要である。
例えば、パーク&ライドの促進に資する松江市内への混雑時における乗り入れ規制等を施したり、自動車利用者の悪天候時等の代替移動手段としての機能を分担したりする方策などが考えられる。
また、スーパー、病院、市役所出張所等の都市機能を駅に併設して、簡易的な駅業務を一体的・効率的に行うことなどの方策も考えられる。